公開:2025年6月17日
弁理士 中川 真人

1. AIに著作権はない?


著作権は、創作者の思想・感情の表現物に認められますので、生成AIによって出力された文章や画像、動画や音声、音楽などの単体に、著作権は原則として認められません。そのため、その出力結果を自己のコンテンツに使用しても著作権法の違反にはなりませんし、AIが動画編集をした場合は、権利譲渡などを気にせず自由にその動画を使うことができます。

一方、その出力結果を誰かにそっくりそのまま利用されても、著作権がない以上文句を言うこともできません。そして、生成AIが出力した部分にあたかも自分に著作権があるかのように主張してしまうと、証拠を求められて「うその回答をした」と判断される場合も起こり得ます。

2. 利用規約が優先する?


生成AIの出力結果に著作権法を直接適用しにくい現状を考えると、どうしても今後はChatGPTやGeminiのような、生成AIプラットフォーマーの利用規約が、直接著作権法と同じような効力を持っていくようになると想像されます[出典:わたし]。

この場合は、著作権法よりもChatGPTやGeminiが出力結果をどの範囲まで自由に使ってよいかと言う検討ができるようになる必要があります。これは法律論ではなく、契約を解釈する力が求められてくるので、仕事としてはかなり高度となります。少なくとも、外国においても生成AIの出力結果に統一した法律を適用して縛ることに関しては、どの国も消極的なようです。

3. 出力結果は誰のもの?


生成AIといえども、本質的にはプログラムに対するその出力結果にすぎませんから、その出力結果も、それを出力させたプロンプトも、思想・感情の表現物と言うよりは、技術的思想の創作物として扱う方が、より実情に合っています。

生成AIによい出力結果を与えるためのプロンプトを作成する講座といったものも盛んですが、ここでいう「よいプロンプト」も、著作権法で保護されるような創作物ではなく、技術・アイデアとして扱われるようになっていくでしょう。そうなると、生成AIプラットフォーマーはプロンプトの入力者にその出力結果の利用を無条件に認めていくということもされなくなっていくでしょう。

4. 同じ結果が得られたら


また、プロンプトが異なっても、全く同じ出力結果を全く別のユーザーに提供してしまうということも、理論上は起こり得ます。このような場合に、もし生成AIの出力結果に独占権のようなものを認めてしまうと、どうしてもいざこざが生じてしまいます。

著作権法であれば、赤の他人が双方全く関係なく同じ創作物を作成した場合には、それぞれに著作権を認めています。生成AIはプログラムの出力結果に過ぎませんから、その出力結果は本質的には生成AIプラットフォーマーの創作物であり、法律的にその自由な使用をユーザーにどこまで認めさせるかの判断に、統一されたルールを敷くことは非常に難しいのです。

5. 著作物になる場合


このような論点が満載な生成AIですが、その出力結果をいわゆる「素材」として使用し、全体としてあなたの思想・感情を表現する映像コンテンツを作成した場合には、原則通りにその映像コンテンツには、各種著作権が認められます。

これらは、フリー素材を繋ぎ合わせて一つの作品を作る過程と同じです。例えば、ある区間だけ、生成AIの動画を挿入し、その部分だけを流用されたらそれは著作権の侵害にはなりません。しかし、作品を通じて生成AIの動画部分を含む形で流用されたら、それはあなたの映像コンテンツの著作権を侵害したということになります。ここも、主従関係の判断が肝心になります。

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